渡辺碧水
【同タイトル(三)から続く】
女王物質が巣全体に行きわたることは、女王に不安や危険や心配がなく平穏であるというメッセージになり、蜂群の分業社会の形成と維持は安定する。
女王物質(女王フェロモン)の機能の主なものを、次に例示してみる。
まず、働き蜂に対して放出する役割(階級)分化フェロモンと集合フェロモンの例。
働き蜂は雌なので、何もしなければ卵を産むようになる。そこで、女王物質の放出によって、働き蜂の卵巣の発達を抑制する情報を出し続け、幼虫のころから卵を産めない状態にする。
また、働き蜂は、放っておけば巣造りの一環として、新女王蜂用の王台を造り始める。新女王蜂誕生の準備は女王蜂自身の役割を危うくするおそれがあるので、王台を造らせないようにしなければならない。そこで、まだ元気だからその準備は不要だという情報を出し続けることも必要である。
それらの傍ら、働き蜂としての労働にひたすら専念させるために、刺激を与え新しい巣板を造らせ、採蜜などの役割労働を促し続けなければならない。
やがては、長女の新女王蜂に自身の巣を明け渡し、新しい巣造りのために、半分の働き蜂と一緒に新天地に向けて旅立たなければならない巣別れ(分蜂)の時がやってくる。その時には、新しい営巣場所に落ち着くまで、移動中に群れが分散しないように自分の周りに集結させ続けなければならない。そのとき、集合フェロモンを放出する。
次は、雄蜂に対し放出する性フェロモンの例。
女王蜂は、成虫になると、有精卵を産むために他群の雄蜂の精液を求めて、交尾のための空中飛行(婚活結婚飛行)に出かける。多くの群れの女王蜂と雄蜂が空中で乱舞して交尾ショーを繰り広げるのだが、優秀な遺伝子を持つ強い雄蜂と、相手を変え何度も交尾しなければならない。そこで、雄蜂を誘うために、魅惑的な匂い物質として性フェロモンを放出する。
このように、女王蜂が放出し続ける女王物質のフェロモンは、蜂群全体が生き生きと行動する基になっているのであり、元気な自らの存在を示す物質なのである。
女王蜂が死んだ場合は、この物質の供給が途絶えるため、働き蜂や幼虫の中から次の女王蜂となる生殖能力のあるものが現れて、蜂群の営みは継続される。
【同タイトル(五)へ続く】
(完)
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