渡辺碧水
蜜蜂社会は「リーダーなき秩序社会」と説明されることが多い。
女王蜂が指導者と思われがちであるが、実は、指導者は存在せず、主に働き蜂間の情報伝達によって運営される社会なのだといわれる。
働き蜂間の情報伝達といっても、どこからか情報が発信されなければ、伝達も始まらない。その発信元があるはずだ。
どうやら、主要なものは女王蜂が発信元で、女王蜂が放出するフェロモン「女王物質」が情報ということらしい。言葉を持たない蜜蜂のような場合、言葉のような機能を果たし、蜂群全体のコミュニケーションを図る手段になっている。
その威力の凄さを示す外国での実例と解説が、二〇二一年二月、日本でも紹介され話題になった。その二つの話題は無関係な偶然の一致なのだが、共通点は「フェロモン」に関することだった。
まず、実例の話題を紹介する。ニュースサイト「テックインサイト」で報道されたもので、「『なぜ刺されない?』ハチの大群を腕にまとい歩く男/秘訣は拳の中の女王蜂にあり」というドミニカ共和国発のもの。
左腕に何千匹もの蜜蜂の大群をまとった男性が平然と道を歩く衝撃的な映像で、養蜂家が蜜蜂群を新たな巣箱へ移動させている途中の姿。「なぜ刺されないの?」「危険すぎる!」と周囲を驚かせたという。
これに対して、インターネット掲示板には、様々な投稿があった。例えば、「一見、群れたハチは怖いものですが、女王を守りながら新たな住処を探しているときは、実はハチたちは非常に従順なんです」「女王は(掌の中で)危害を加えられておらず、脅威を感じていないので、他のハチも女王に従って大人しくしているのでしょう」というもの。
もう一つ挙げると、「ミツバチたちは男性の拳の間からも女王の匂い(フェロモン)をかぐことができる。もし女王が危ない時は『助けて! 危険にさらされている』って叫ぶような香りを放つんだけど、そうはしていないようだね」というもの。
どうやら男性が蜜蜂に刺されることなく巣を移動しているのには、女王の発するフェロモンに安全の鍵があるようだ。
解説話題は「女王蜂から猫のすりすりまで/動物の多彩なフェロモン」というイギリス発の、フェロモンの進化を研究するオックスフォード大学の動物行動学者トリストラム・ワイアット氏の説明を紹介したもの。
【同タイトル(二)へ続く】
(完)
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