こぐま
主人の祖母は私たちが実家へ帰省するたび、小さな自慢話をする。
「私は年取って化粧もなんもしとらんけど、肌がきれいちゅうて周りから褒められるんよ」。今年の春、そう言った祖母は食器棚の奥からおもむろにハチミツの入ったボトルを取り出し、まるで水筒のお茶を飲むように、ボトルから直接ハチミツを飲んだのだ。祖母はかなりの甘党だが、チューチューと飲むその量はスプーン数杯ではきかない。そんな姿を見て呆気に取られている私に「これ飲んどるさけ、肌もきれいし元気なんよ」と朗らかに笑った。確かに祖母は年齢の割に肌ツヤが良い。育児疲れでボロボロの私が羨ましく思うほどピンと張った頬が印象的だ。腰は少し曲がっているがスタスタ歩き、大病もせず、見た目に限らず体の中も若 々しく本当に元気だ。このことも祖母の自慢のひとつである。
祖母のハチミツは養蜂場を経営する実兄から譲り受けたものだ。しかし、実兄が亡くなった一昨年末に養蜂場をたたむこととなり、祖母の手持ちのハチミツは飲みかけの分を含め2本となった。他のハチミツを試してみたが、兄の味とは違う、と受け付けなかったらしい。これがなくなれば、もうハチミツを飲めなくなる、と寂しそうに話す。祖母にとって兄の作るハチミツは長年親しんだ味であると同時に、兄を懐かしむ思い出の味でもあるのだ。
その日の夜、義母にハチミツの話をすると、全く知らなかったと驚いていた。「お義母さんは、おばあちゃんがハチミツ飲んでること知らないみたいですよ」と言うと、「そりゃそうや。美容の秘訣やもんで誰にも言わんよ。あんた若いのに疲れとるさけ教えてやったんや」と白い歯を出しニカッと笑うのだ!祖母が心配するほど私は疲れた顔をしていたのか……と落胆したが、孫の嫁には自分だけの秘密を教えてやろうと思ってくれたのだ、と前向きに受け止め、まずはスプーン一杯のハチミツから始めようと心に決めたのだった。
(完)
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