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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜漬けのレモン

高橋聖花

 

小学生四年生の時私は担任の先生に恋をしていた。大人へのあこがれ、「先生」という良い面だけで判断した。そういう人もいたけれど、確かにいえることは恋だった。先生の誕生日を覚えたり、夕ご飯が同じだった時には狂喜したり、教育実習の若い先生に嫉妬したりしたものだ。 
でも、この恋は成立してはいけない恋だということは、分かっていた。私は小学生の生徒で相手は大人の先生。だから、私は、友達にも、誰にもこの恋のことは相談せず、常にポーカーフェイスを保って「忍ぶ恋」をしていた。 
「忍ぶ恋ほど燃え上がる」そういう人もいたけれど、私にとって「忍ぶ恋」は拷問だった。何をしていても隠さなければいけない、私だけで抱え込まなくてはいけない。それなのに、夜になると、せめて夢の中だけはと、欲が出てきて先生を思いながら甘ったるい妄想に耽けるのだった。まるではちみつ漬けにされたレモンのような恋だった。甘いのに苦しい。にがい。どんなにもがいてもはちみつがへばりついて動けない。そんな恋だった。 
やがて、恋に熱中していくうちにポーカーフェイスも剥がれてきてしまってバレそうになった。私は必死で、隠すために先生を避けたり、先生の授業だけ手を挙げなかったりしてしまった。そうすると、先生も私を避けるようになってしまった。 
「いかないで」 
「嫌わないで」 
そう言いたいのに、やけに大人ぶった私がこれでいいのだと、止めてしまって何もできないのだ。レモンは、はちみつの底へ沈んでいった。 
この恋の終わりは、早かった。先生が別の学校へ赴任することが決まった。その学校は、先生の地元の学校で 
「故郷で教師をしたい」 
といつも先生が言っていた夢が叶ったのだ。良かった。良かったはずなのに、涙が出てきた。でも、この恋は人前で泣くのを許してくれるような恋じゃなかった。トイレで私は、声を押し殺して静かに泣いた。 
その日から、先生が行ってしまう日まで告白について考え続けた。毎日毎日考えた。でも、嫌われているのが分かっていたから怖くて出来なかった。しかし、最後の授業の号令をかけられたことが一番嬉しかった。これでこの恋は終わると思っていたのに、まだ燻り続けていた。 
六年生になったとき、先生が結婚したことを知ってしまった。相手はあの教育実習の先生だった。教育実習の先生は、正式に先生となって、うちの学校にいたから知ってしまった。ネットでは、「不倫」「浮気」のキーワードを含む検索履歴が増えていった。違うのに。浮気をする先生なんて見たくないのに、どうにかしてまだ恋を実らせたい自分がいた。 
教育実習の先生は、嬉しそうで、幸せそうで、綺麗で。私は、悔しくて、悲しくて、惨めで。私と入れ替えっ子して欲しいと何度思ったことか。そんなとき、私の中の悪魔が囁いた。 
「潰せ」 
と囁いた。 
それから、教育実習の先生の嘘の悪口を言い始めた。まずは、親。それから、クラス中に。嘘は案外辻褄さえ合えば、人の心に入り込むことが出来るのだ。噂はどんどん広がった。元々、寿退職する予定だった教育実習の先生は、居ずらくなって早めに退職した。私が追い出したのだ。嬉しいはずなのに、悲しかった。先生は、きっとこのことを知るだろう。そして私を憎むだろう。 
やっぱり、振られても告白しておけば良かった。そう思い続けることが、追い出したことへの罰だった。レモンははちみつの中で腐っていた。

 

(完)

 

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