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蜂蜜エッセイ応募作品

満開の桜花に蜜蜂がいない

渡辺 碧水

 

 二〇二一年春、新型コロナウイルス蔓延も何のその、桜前線は例年を上回るペースで北上し、間もなく北海道にも上陸し、札幌は四月二十三日との開花予想が発表された。
 春爛漫、満開情報は、各地で統計開始以来、最も早い記録を更新し続けている。
 所狭しと咲き誇る桜花だが、毎年のことながら物足りないのは、花から花へ蜜を求めて忙しく飛ぶ蜂の勇姿がほとんど見られないこと。
 花見に繰り出す群衆にとっては、好都合なのかもしれない。邪魔が入らず、花びらを間近でじっくりと眺めることができ、刺されて大騒ぎなどという事態も起こらないから。
 はかない短い命にたとえられるように、桜の花は開花が早くて、瞬く間に散る。
 桜の開花の季節は、外気温があまり高くなく、まだ寒の戻りもあるので、蜜蜂の活動は鈍い。蜂球の状態で越冬した蜜蜂の巣では、外界の活動に向けてまだ準備中で、産卵し育児が行われている状態にある。
 蜜蜂は、桜の花の蜜を集めに行きたくても、低い外気温では寒くて飛べないし、開花の期間が短いので、出かけることも花蜜を集めることもできない。
 こんな状況に疑問を抱くのは、私一人だけではないだろう。草木の花と蜜蜂とは緊密な関係で結ばれていて、共に依存し合う関係にあるのに、桜はこれを無視する勝手な咲き方をしていると思われるからである。
 ポリネーターとして、蜜蜂は、花から蜜を与えてもらい、その代償に花粉を運んで受粉を媒介し役割を果たす。それなのに、桜はその関係を拒絶するように花を咲かせる。
 そこで調べてみると、われわれが愛(め)でる各地の壮観な並木や公園の桜は、どの地域の樹も「ソメイヨシノ」という品種で、花はほぼ同時期に派手に咲いてあっという間に散る、花蜜を出す機能が退化した、子孫を残さないタイプだとわかった。
 驚くことに、この一般的な桜はすべて、江戸時代末期から明治時代、世界大戦後の昭和時代、見栄えの良い花の桜を鑑賞用に競って植樹で各地に広めた、人の手で接ぎ木や挿し木の技術を使ってコピーしたクローンであり、種のいらない生きた造花なのである。
 一方、自然な状態で育った桜の樹も少しはある。開花時期の遅い「山桜」や「八重桜」の系統で、花蜜を豊富に出すので蜜蜂が群がる。自然の営みは粛々と行われる。
 桜の蜂蜜は、これら由来の本物で、ソメイヨシノに由来する産物ではない。

 

(完)

 

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