渡辺 碧水
働き蜂がほとんどを占める蜜蜂の巣(蜂群、コロニー)には、越冬期に雄蜂が不在の時期はあっても、羽化前の幼虫期・蛹期を含めて、一匹の中核となる女王蜂がいつも巣にいないと、群れとしての平穏な通常の状態は保てない。
だから、働き蜂は何から何まで面倒をみて、女王蜂を大切に扱い守り世話をする。
女王蜂が巣を一時離れるのは、羽化後一週間以上経ち、性的に成熟し、別群の雄蜂と交尾するために出かける一~三日ほどの空中飛行(婚活結婚飛行)の時だけである。
生涯最も危険な外出になるので、お付きの働き蜂(二十匹程度)に護衛されながら飛行するのだが、途中で突然鳥に襲われたり、蜘蛛の巣に引っかかったりするなどして、思わぬ形で命を落とすこともある。
突然の事件・事故に対して、護衛蜂といえども見ているだけで、為す術はない。
交尾の旅から無事に帰ってきても、巣が外敵に襲われ殺されたり、不慮の事故や病気などで、重要な産卵の役割を果たせなくなったりすることは、まれであったとしても、生き物である限り起こり得る。
女王蜂がいる群れを「有王群」といい、いない群れを「無王群」という。
何かの事情で女王蜂がいなくなったら、働き蜂たちは動揺して動き回り、巣内は大騒ぎになる。いわゆる「無王騒ぎ」の現象が起こる。
「無王騒ぎ」とは、蜂群全体が悲しそうに翅を震わせる行為。そして、働き蜂たちは、巣の外に出て尾尻を立て、尾部の分泌器官芳香腺から特有のフェロモンの匂いを出し、翅で拡散させる。
これは、もしかしたら女王蜂が迷子になっているかもしれないという期待から、「自分たちの巣はここだよ!」という合図として匂いを振りまくのだそうだ。
養蜂で人間に飼われている場合は、見回りで異変に気づく。想定される事態として既に配慮されているので、ただちに代替措置がとられ、交尾済み女王蜂が無王群に導入されるなどによって、巣の騒動は沈静化されて通常の営みに回復する。
それはそうとして、自然な条件下で、蜂群の自力による対応ならどうなるだろうか。
女王蜂を失った蜂群は、存続の危機に直面することは避けられない。とはいえ、緊急対応をして立て直す努力がなされ、壊滅的な打撃を避けることも不可能ではない。
【同タイトル(二)へ続く】
(完)
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