渡辺 碧水
大きな苔皿に水苔が入れられ、小さな歓迎札「ミツバチ御一行様専用水飲み処」が立っている。そこに、参拝者が手と口をすすぐ手水の流れ口脇から漏れる清潔な水が、割り竹で造った導管で水飲み場に誘導され流れ込む。
そばの布の看板には、「手水をご利用の方へ ミツバチが水を飲みに来ます! とても優しい性格なのでほとんど刺すことはありません。刺激しなければ攻撃をしてこないので驚かさないでね!」とある。
まるで看板を見て集まったかのように、舌を伸ばして、蜜蜂が水を飲んでいる。
茨城県常総市にある「一言主(ひとことぬし)神社」境内の手水舎の様子。
二〇一六年八月、この情景が「優しい話で癒される」とSNSでツイートされ、全国に拡散され話題となった。
ということで、今回は蜜蜂と水の話。
意外と知られていないが、蜜蜂も水を常に飲むということ。
動物には水が必要。大きな哺乳類も小さな昆虫も、地上の多くの生物は水がなければ生きられない。蜜蜂も例外ではなく、水を大量に必要とする昆虫である。
働き蜂の外勤蜂は、花蜜集めと同様に、小川等から水を胃に飲み込んで巣に運び、口移しで内勤蜂に引き渡す。
内勤蜂は、幼虫に分け与え、また、多くの用途に利用する。巣を造るとき、育児中の幼虫に与える蜜を薄めるとき、巣内の温度調節をするときなどに使う。
感心するのは、長い歴史の中で獲得した習性として、真夏の暑さに対処して、巣箱の中を三十五度前後に保つため、盛んに水を汲んできては、羽ばたいて巣の内部に水を撒き、その気化熱で温度を下げること。
どうしても必要だから、蜜蜂は水を求めて数キロメートル先までも飛んでいくが、体力も相当消耗する。水場の確保・管理も、蜜源の花と同様に大切である。
したがって、養蜂では、水飲み場を巣箱の近くに設置し、遠くまで飛んで行かなくても、巣箱のすぐ近くで飲めるように工夫してやる必要がある。
農薬などに汚染されていない清潔な水を、溺れないように止まり場を浮かせるなどの工夫した浅い容器に入れて巣箱の近くに置くようにする。蜜蜂は、水の中に落ちて翅が濡れると、飛び上がれなくなり溺れ死ぬ。養蜂家は水場の管理にも気を抜けない。
あれから毎年、一言主神社の優しい対応は「暑くても心が温まる」真夏の清涼飲料水になっている。
(完)
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