多田 正太郎
もうかれこれ三〇年。そんな前の話だが。
海外への派遣制度。職場の制度だ。まだまだ海外が憧れの時代だ。生意気盛りの若造には、たまらない魅力の地。ヨーロッパ。それもドイツに行きたかった。なぜなのか? 兎に角ドイツは、子供のころからの憧れの国。特にミュンヘンは特別だった。涎が出るほど、行きたかった。それが実現した。本場のビールも、たまらない美味さだった。オクトーバーフェストも素晴らしかった。しかし圧倒されたノイシュバンュタイン城。城に向かう相乗り馬車。東洋人は、一人だった。蜂が何匹も、うるさくまとわりついた。本能的な仕草として、手で払い続けた。全く効果なし。
最初は無関心を装った相乗りドイツ人たち。
次第に同情心? いや彼らの習性なのか。
とうとう一人が、言った。「静かに見守れば大丈夫だよ!」たしかに、そうだった。それから、2年後のミュンヘンでの姉妹都市十周年を祝う野外昼食会。そこの会場に群がる蜂。
日本人の感覚では、信じられない光景だった。
平然としていたドイツ人たち。今なら分かる。蜂は、自然界の生命線なのだ。彼らの大切な役割、受粉がなければ…。そう! 食糧生産が大打撃の事態だ。深刻だよ、人口はどんどん増え続けてるし。人類の生存に壊滅的な影響あり。そんな指摘をする知識人も。説得力を感じる。さてビールにまして美味かったお菓子。それはバームクーヘンだけにあらず。何百年も前からクリスマスの伝統菓子レープクーヘン。もともとは天然の蜂蜜と香辛料で作られていた。いやいやまだまだ。ダンプフヌーテル、シャネーバル、シュトロイセルクーヘン、モーンクーヘンなどなど切りがないほどだった。一つ言えることは、蜂蜜なくしてあり得なかったお菓子だ。お菓子の家、さすがグリム童話の国だと思った。それだも、東洋人が蜂を無碍に払う仕草。きつと我慢できなかったんだろう。城に向かう相乗り馬車のドイツ人たち。三〇年前の記憶が鮮明だ。
(完)
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