秋のり子
私が参加している英語サークルの青年講師、ジェイソンは、ニュージーランド出身だ。年に数回は両親の待つ実家へ里帰りするが、私たちも誘われて同行したことがある。十二月、向こうは夏であった。
彼の故郷はピクトンという港町である。家族の温かい歓迎を受けた後、ジェイソンのお父さんであるビルが、広い家や庭を案内してくれた。そこで初めて見たのが、いつもジェイソンに聞いていた蜂の巣箱である。ビルは裏庭で蜂を飼育して、大量の蜂蜜を採取しているのだ。
蜂が集めた蜜を丁寧に濾過し、消毒した容器に詰めて、自家製のマヌカハニーが出来上がる。濃厚で何ともいえず味わい深い自慢の品だ。近所でも自家製の蜂蜜を作る家は多いという。
ビルが説明をしてくれる間にも蜂は巣箱の周りをブンブン飛び回っている。何も防護をしていないので少しばかり怖かったが、聞いていたように蜂は決して攻撃はしてこない。
数匹が私の頭に来て止まったが、ビルは微笑みながら手のひらに移して巣箱の近くに戻している。女性の髪はシャンプーのいい香りがするので蜂が寄ってくることがあるらしい。
ずっと以前だが私は最初にマヌカハニーをジェイソンから貰ったとき、マヌカハニーという名前さえ知らなかった。しかし彼はひとつだけ念を押している。一〇〇パーセント、マヌカの蜜ではないはずで、ほかの花も混じっていると思う。なぜなら蜂はどこへでも飛んで行き、いろんな種類の花に止まるはずだから。
けれども蜂は最初に行った花のところへ繰り返し行って、同じ花の蜜だけを集めるのだと、私はどこかで聞いたことがある。ジェイソンは信じてくれないが。蜂に聞いてみたいものだ。
ピクトンの広 々とした住宅街にも、大通りにも、マヌカの花は満開だった。
(完)
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