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蜂蜜エッセイ応募作品

ハニーピザ

加草 糖

 

 「さあて、ピザ取るかね」
 火葬場から帰って早 々、祖母がそんなことを言い出したものだから私は唖然とした。ばあちゃん、どうしたの。たまにはいいのよ、ほら好きなのをお選び。てきぱきとチラシを取り出して電話をかける祖母に押されて、私はハニーピザを頼むことにした。そういえば、と思い出す。亡くなった祖父もこれが好きだったっけ。
 くたびれた喪服を脱いで、数珠をしまって、新聞受けに入れっぱなしだった朝刊を引っ張り出してくると、一仕事終わったという表情で椅子にもたれかかっている祖母の姿を見つけた。手には携帯が握られたまま。至ってさっぱりとした顔だ。五十年もの間付き添ってきたというのに、別れになっても随分あっけらかんとしているものだ。
 そのうち表が慌ただしくなって、大きな袋を両手に持った父と弟が帰ってきた。Lサイズの箱が四つ、あれよあれよという間に長机に並べられていった。ハニーピザは一箱、私の席の前に置かれた。溢れんばかりにかけられた蜂蜜が生地の上でてらてらと光っている。ここ数日当たり障りのない仕出し弁当しか食べていなかったから、久 々のほかほかのピザは随分なごちそうに見えた。
 従兄弟家族も合流して、親族揃って出来立てにかぶりつく。葬式の晩にピザ。こんな弔い方があるもんだな、罰当たりじゃないかなと思いつつ、私も一切れ。とろっとした甘さがじんわり胃に染みた。いつもの味。闘病生活が始まる前は祖父と二人でよく頼んだものだ。ピザに蜂蜜なんて、とみんなにはやしたてられたっけ。言い返す代わりに、黙 々と頬張る祖父の姿が印象に残っている。この味を共有する人がいなくなってしまったことが、少しだけ寂しい。もう一切れ、と手を伸ばすと珍しく祖母も食べようとしていたようで、遮られてしまった。驚く私に、祖母はちょっとだけばつの悪そうな顔をして言った。
 「おじいさん、生き仏は腹がぁ空きます」

 

(完)

 

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