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蜂蜜エッセイ応募作品

(無題)

佐藤 愛

 

 母とケンカをした。たった二人きりの家族の母と、だ。
 事の発端は覚えていない。八つ当たりをされて最初は受け流していたが、この血筋はしつこい。母の怒りのボルテージは勝手に上がっていった。私の子ども時代のことまで言い出して、「女手一つで育てるのは大変だった」から、しまいには「子どもなんて産まなきゃよかった。いいことなんて一つもなかった」とまで言われ、さすがに頭にきて言い返した。それが悪かった。いい年した女二人が家で怒鳴り合う始末に。女というものは執念深い。あのときあーだったとか、あー言われて傷ついたとか、なんでこーしてくれなかったんだとか、脈絡のない罵声が飛び交い、しばらく口もきかなかった。
 数日後、私は仕事で無理をして体調を崩した。接客業だというのに声がでない。そのうち治るのはわかっているが、繁忙期で仕事は休めず行くしかない。
 そんな私を見かねたのか、ある朝仕事へ行くため重い体を起こした私に、母は無言でマヌカハニーのど飴を差し出した。といっても、ぶっきらぼうに机に置いただけだが。
 「……」
 ああ、アレか。と私は重い頭の奥で思った。通販大好きの母が夜中に見た番組で一式購入した蜂蜜セットの中に、そののど飴は入っていた。一緒に届いたプロポリスは美容と健康にとても良いそうで、何回か付き合って一緒に食べた。甘くてネットリとした独特のテクスチャーが印象的だった。
 「……」
 ぶっきらぼうにのど飴だけを口に放り込むと、甘くてコロンとした飴が、口の中で香った。何個かなめているとだいぶ喉の調子が良くなったが、仕事へ行くためそのときは無言で出ていった。
 
 帰宅後、ムスッとしながらそれでも母に、お礼と悪かったという趣旨の言葉をつぶやくと、母も言い過ぎたと謝ってきた。
 
 
 些細なことの繰り返しで、ケンカしたり仲直りしたり。そんな私の日常の中に、蜂蜜は密かに溶け込んでいたのだ。

 

(完)

 

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