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ミツバチと共に90年――

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黄金の朝

彩音

 

 淡い暗がりが部屋を覆い、時計の秒針は今か今かとカチカチ音を鳴らしながら進んでいた。覗いてみると土曜日の午前6時前。毎朝急かしたてる憎たらしいコイツに向かって未だ霞む視界を押し退けながら勝利の笑みを浮かべた。
 その日の私は一味違った。
 なんせずっと楽しみにしていた彼女が待っていたのだから。
 布団に別れを告げひんやりとしたフローリングの階段を数えながら降る。窓の外は雪景色。澄んで冷え冷えとした空気が鼻腔の奥をツンと刺激した。
 まず初めにする事はストーブを付けやかん半分の水を沸かすこと。それから昨日買った食パンに薄くバターを塗りレースのお皿にそっとのせるのだ。
 ここで漸く彼女が登場する。
 見つからないよう戸棚の奥に隠した彼女は今日も変わらず透明な瓶の中で琥珀の如く煌 々と輝いていた。
 蓋を開け、豊潤な花の香りをゆったり漂わせる彼女をスプーンいっぱいに掬うとパンの中心から円を広げる様にたっぷり塗り込む。それをトースターの中央に配置し3分と10秒の間じっくりと焼き上げる。
 待っている間、白湯を飲みながら様 々なことを考える。例えば、学校の事、課題の事、お金の事、将来の事。そうやって物思いに耽っていると3分ちょっとなんて時間は本当にあっという間で、高い一度のベルの音が再び私の意識を呼び寄せた。
 中を覗くと、狐色にこんがり焼けた表面はいくつもの光粒がキラキラと煌めいてなんとも食欲を引き立てた。堪らず香ばしく豊かな香りに思い切り齧り付くと小麦の甘味とバターの香り、そしてまろやかな甘みがじんわりと口いっぱいに広がりレンゲ畑の華やかな風が優しく吹き抜けていった。
 ただ、サクサクと鼓膜をくすぐる軽やかな音だけが響く。心地よくて耳を澄ませているとどこからか雀たちの歌声が聞こえてきた。思わず窓に目を向けると黄金の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。あぁそうか、こうやって今日が始まっていくんだなと目を細めながら私は最初の一口を贅沢な朝の香りと共に飲み込んだ。 
その日の私は一味違った。

 

(完)

 

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