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蜂蜜エッセイ応募作品

舐めたらあかんよ

二村直子

 

 「お母さん、お口がカサカサで痛いから、はちみつ塗って。」
幼い頃、外遊びばかりしていた私は、冬になると唇がひどく荒れていた。笑うたびに口角が切れて血も出る。その唇を舐めるので、いつも唇は真っ赤で、2倍に腫れていた。
 「舐めたらあかんよ。余計に荒れるからね。」
 はちみつが唇の荒れに効くからと、母が大きな瓶からはちみつを指ですくい取り、私の唇に塗ってくれる。
 甘くて美味しいはちみつをたっぷり塗られて、それを舐めないのは、幼い私にはかなり酷なことだった。唇を尖らせて、舐めないように我慢する。唇がキラキラしてまるで口紅を塗ったみたいになり、少し嬉しくなる。
 でも、そんな我慢は数分しか持たず、ついつい少しずつ舐めてしまって、結局ペロペロと美味しく舐めきってしまうのだ。
 はちみつは肌荒れに塗ると効果があると聞くので、荒れた唇にも効果があるだろうが、幼い子の唇に塗るとは、母もなかなか豪快な人だったなと、思い返しても笑えてしまう。
 私は、はちみつを堂 々と塗ってもらえるので、荒れた唇も悪くないと思っていた。40年以上も前の話だ。はちみつは幼い私には、ちょっと贅沢で、特別な食材だったのだろう。
 今でもはちみつを舐めると、荒れた唇のザラザラした舌触りも、甘い誘惑に負けて舐めてしまった罪悪感も、得をしたような満足感も、母の
 「また舐めたんやね。」
 と笑う顔も、懐かしく思い出される。

 

(完)

 

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