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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

散歩とミツバチ

渡辺勝

 

 愛犬との散歩で近所の川辺を歩くと、アカシアの林に養蜂家がミツバチの巣箱を置いていた。
 冬の一日。 
 巣箱に近寄って見れば、キイロスズメバチと思われる大型のハチの死骸があちこちに散乱し、一匹のスズメバチの周りにミツバチの死骸も七、八匹ずつ横たわっていた。きっと巣箱を襲ったスズメバチに、働きバチが必死に防いで死んだのだろう。物言わぬ亡骸を見ていると、勇敢に戦ったミツバチたちの奮戦ぶりが思われて、女王蜂や巣を守るために命をかけたのだ、と感動した。アニメの「ミツバチハッチ」のストーリーにそっくりだとも思った。
 夏の一日。
 養蜂家が世話をしているところに出会ったことがあった。
 スズメバチに対する働きバチの戦いに感動したことを述べると、
 「ロイヤルゼリー、舐めてみますか」と、巣箱からスプーンですくい取ってくれた。初めてのロイヤルゼリーだった。
 「これ、高価で栄養価も高いんでしょ?」と訊くと、
 「ええ、栄養サプリとしてよく使われてますね」とニッコリした。
 なめてみた。
 酸っぱかった。何となく蜂の針を連想させる酸っぱさだった。忘れぬことのない味であった。
 そんな姿を見上げていた犬も亡くなってしまった。以来、巣箱を訪れることもないが、心に残るミツバチの思い出である。

 

(完)

 

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