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蜂蜜エッセイ応募作品

祖母のホットレモン

古賀愛実

 

 祖母の家の冷蔵庫には、いつもレモンの蜂蜜漬けが入っていた。小さいタッパーの中に、薄切りのレモンが数枚。金色の蜂蜜に浸されてツヤツヤと輝くレモンは何だかとても綺麗に見えて、眺めているだけで不思議と心が踊った。
 その蜂蜜漬けで、祖母はよくホットレモンを作ってくれた。レモンをカップの底に並べて、お湯を注げばもう完成。薄切りのレモンが浮かんだこの飲み物は、幼い私にとってはまるでお洒落な大人の飲み物。スプーンの先で何度もレモンをつついては、お姉さん気分を味わっていた。結局それはただの大人ごっこで、まだまだ子供の私の舌は、蜂蜜の甘さにきっちり助けられていたのだけれど。
 「これば飲んだら、風邪もすーぐ治るとよ」
 ホットレモンを作る時、祖母はよくそんなことを言った。少 々ひねくれた子供だった私は、心のどこかでその言葉を疑っていた。だったら薬なんて要らないじゃない?と。けれど、ある時、祖母のホットレモンのおかげで、喉の痛みが嘘のように消えてしまったことがあった。とても驚いた。あの一件、いやあの一杯以来、私は祖母のホットレモンの効果について絶大な信頼を寄せている。疑ってごめんなさい。
 絵を描くことが好きな私は、祖母の家でよくお絵描きをして過ごした。祖母の誕生日には、毎年似顔絵をプレゼントした。祖母は、その一枚一枚を今でも大切に保管してくれている。私がお嫁に行く時に、まとめて渡してくれるつもりらしい。その内の数枚は、今でも冷蔵庫に貼られている。そう、私の大好きなレモンの蜂蜜漬けが入っているあの冷蔵庫に。
 コロナウイルスが猛威を奮う今、気軽に祖母に会うことが難しくなってしまった。私は今でも喉が痛い時、体調を崩しそうな時、必ず祖母のホットレモンを思い出す。コロナも、あのホットレモンを飲んですぐに治るのだったらいいのに。そういえば、大人になった私はあまり絵を描かなくなってしまった。何だか急に寂しくなって、祖母の絵を描きたくなった。そうだ。次に祖母に会えた時に渡すための絵を描こう。私がお嫁に行くまでには、まだまだ時間も掛かりそうだし。きっと喜んでくれるはずだ。

 

(完)

 

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