ゆう
吐息が白く見える季節のお楽しみ。外がまだ暗く、街灯がまだ煌 々と点いている時間に目が覚めてしまったとき、私は紅茶を入れる。冷気が世界中を包み込んでしまったような静けさのなかで、やかんに水を注いで火にかける。その一つ一つの動作で立てられた小さな音が妙に心地いい。夜と朝の間のこのわずかな時間は私のものになる。
お湯が沸いたらお気に入りのマグカップにお湯を注いで一度捨て、ティーバッグのお茶を淹れる。そこにはちみつをスプーン一杯。最近のお気に入りは、クローバー。頂き物のとっておき。贅沢に使うことはできないけれど、ちょっと使えば贅沢な気持ちになれる虎の子だ。台所に置いて寒さで結晶化しているのが、紅茶に少しずつ溶けていくのを眺めるのがいい。
ある程度溶けたところで、お行儀が悪いと思いつつ、スプーンをそのまま口に含む。しゃりしゃりとした食感とすっきりとした甘さが私を楽しくさせる。本当は、子供の頃からこうしてそのまま食べるのが一番好きだ。大人だから、もう一口食べたい気持ちは未来の私のために我慢。ふぅふぅと息を吹いて熱い紅茶をちびちびと体の中に収めていく。
秘密のティータイムを楽しんだあとは全てきれいに片付けて、何もなかったようにしてもう一度布団の中へ戻る。夜と朝と私だけの秘密の時間は誰かに知られてはいけない。
温まった体は布団のなかで、紅茶に沈められたはちみつのようにゆっくりと眠りに溶けていく。このお楽しみのあとの朝は、なぜだかとても心地がいいのだ。夜中に目が覚めてしまったときに、始まる一日を思って、休まなければ眠らなければ、と焦らないための優しい甘さと温かさは毎日を頑張る私のとっておきの時間だ。
(完)
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