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蜂蜜エッセイ応募作品

ポーランドの養蜂家

佐 々木文子

 

 30年ほど昔、ドイツで暮らしていた。暮らし始めて間もない日、玄関の呼び鈴が鳴った。テラスハウス形式で道路に面していた我家は、誰でも気軽に訪ねて来られた。玄関先の2m近い長身男性は、少し汚れたフランネルシャツとオーバーオール姿だった。ヒゲもじゃで無邪気な笑顔のまま、右手にぶら下げたペンキ缶を差し出し、こう言った。
 「ホーニッヒ。ホーニッヒ。ハニー。ハニー。」
 一瞬身構えた私の頭の中を、ある考えが過った。彼はもしかして物乞いなのか?ペンキ缶に寄付金を入れれば良いのだろうか?
当時ドイツ語を話せなかった私は英語で状況を訊ねたが、彼は英語を話せなかった。ホーニッヒがハニーであるという言葉の意味は知っていたが、蜂蜜そのものだとは考えが及ばず、見知らぬ女性に媚びを売る意味でのハニーだと思い込み、知っている単語を並べてお帰り頂いた。
 後日、彼はポーランドから来た養蜂家で、訪問販売をしている事を知った。ビンは輸送の際に割れる心配がある為、ペンキ缶が丁度良いらしい事も。何も知らなかったとは言え、その出来事を酷く後悔し、暫く頭を離れなかった。
 3年後、再び彼が現れた。手には例の缶がぶら下がっていた。聞けば菩提樹の蜂蜜との事。早速購入し3年前の非礼を詫びたが、彼は覚えていなかった。「そんなの、良くあることさ!」
 初めて頂く菩提樹の蜂蜜は濃い飴色で、味に少しクセがあるものの美味しく感じられた。タップリあったので、砂糖の代わりに何にでも入れた。彼の事をずっと覚えていたくて、ペンキ缶のまま使った。
 そう言えば、玄関横の大木も菩提樹だった。あの小さくて黄色い花の1つ1つから蜂が蜜を吸った集合体がこの蜂蜜なのか!と感慨深かった。
 おそらく彼はあの笑顔で蜜蜂の世話をし、語りかけ、あの笑顔でペンキ缶に蜂蜜を詰めていたのかと想像すると、あの黄金色の液体が特別に美味しく感じられた。

 

(完)

 

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