みっきい
40を過ぎてから仕事と子どもたちの教育のために生まれた土地を離れ上京した父にとって、遠くにあるふるさとはどんな存在だったのでしょうか。時折帰郷した際に顔を合わせていた姉や旧友たちも次第に会えない人が増えていき足が遠のいていったようです。
そんな父も一昨年あちらの世界へと旅立ちました。そこはかとない寂寥を感じていた頃、回り回って私を心配して連絡をくれたのは今も父の故郷で暮らす私の従姉でした。もう何十年も会っていないので懐かしさと照れ臭さが同居した気持ちでした。手紙やメールでのやり取りが始まり遂に再会した従姉の外見 ・内面から、血の繋がりを感じ嬉しく思いました。
ある時、従姉が見せてくれた一枚の紙。そこには我が家の家系図が書かれていて未知の名前が枝分かれの部分にいくつもありました。自分のルーツにも蓄積されたたくさんの縁があることに心が踊りました。中でも養蜂園を営んでいる一家に目が留まりました。「花と共に蜂と友に創業昭和35年」そんな血縁がいたとは。もしかしたら父が話してくれたかもしれませんが若かった私には響かなかったのでしょう。
従姉がそこで買ってきてくれた蜂蜜を食べました。トーストやパンケーキの上にトロリと乗せると上品な甘さが口に広がり身体中に蜂蜜の力が廻っていきました。一度も会ったことがない「はちみつおじさん」はこの蜂蜜のように優しく爽やかで奥が深い人であることを信じています。真心を込めて丁寧に作業している様子を想像すると、私も自分の場所でしっかりと地に足を着け野の花のように微笑んでいられます。父が遺してくれた愛情の器はこの先もずっと蜂蜜で満たされたっぷり栄養を吸収して私は元気に生きてゆきます。
(完)
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