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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂で泣きっ面

西岡 倫代

 

 「絶対に捕まえられる」。あの自信は何を根拠に湧き上がっていたのだろう?
 
 まだ幼稚園に上がる前のこと。いつも一緒に遊んでいたのは近所に住む同い年三人組。陽射しの強い春の日の午後、我 々は仲間のうちの一人、ケンちゃんの家の庭に居た。
 濃いピンクに白の斑が入ったツツジの花に群がるミツバチを指差してトモコちゃんが私に言った。「みーちゃん、あれ獲って」と。
 私は何の躊躇いもなく「うん」と言い、鼻の上で右に左に忙しなく移動しながら蜜を吸うミツバチに右手を伸ばし、指をパーからグーに ・ ・ ・
 「ギャーーーーー」
 泣き叫ぶ私の声でケンちゃんのお母さんが家の中から飛び出してきた。三軒隣から私の母も走ってきた。それほどの大声で私は泣いていた。
 事の顛末を知った大人たちは呆れ顔。ケンちゃんのお母さんがアンモニアの瓶を持って来て私の指にその液体をかけた。母が私の指をギューッと絞って針を抜いた。昭和五十年代、民間の応急処置のやり方だ。
 ミツバチを獲れなかった恥ずかしさと痛さで泣き続けていた。まさに『蜂で泣きっ面』な私に母が言った。
 「ミツバチはあんたを刺したことで死んでしもたんよ。花の蜜を採る仕事しとったのに、あんたがいらんことしたせいで死んでしもたんよ。かわいそうなんはミツバチの方やで」
 母が指差した地面の上には、先ほどのミツバチが力なく落ちていた。それが『私がしてしまったこと』だった。母と一緒にそのミツバチを拾い、自宅の庭に埋めた。
 
 今年もツツジの花咲く季節。
 ミツバチは花から花へ。
 幾年分の陽射しに焼かれた
 暗褐色の記憶に微笑む。

 

(完)

 

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