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蜂蜜エッセイ応募作品

イスタンブールの絶品巣蜜

米丸

 

 巣蜜を見たのはそれが初めてだった。トルコ ・イスタンブールの外れのホテルの朝食バイキング。5年前のことだ。私は機械メーカの海外営業部で、誰もやりたがらない僻地の新規顧客開拓を担当していた。50を過ぎて出世の見込みもない古参の営業マン。期待されていないのが私に合っていたと言えなくもない。
 
 テレビでしか見たことがない、養蜂家が扱う四角い木枠の内側に蜂の巣がびっしりと詰まったものがサービステーブルの上に立てかけてある。少 々グロテスクだが試しに少し切り分けて皿に載せる。恐る恐る口にしたそれは絶品だった。巣の部分(蜜蝋ということは後で知った)も噛んでいるうちに口の中で無くなり、それほど気にならない。瓶詰めの蜂蜜とどちらが高級か判らないが新鮮だということは想像が付く。産地が離れていないだろうことも。きっとイスタンブール近郊の花の蜜だ。そう思うことにした。
 
 考えてみると蜂蜜は贅沢な食べ物だ。養蜂は近代化できない。花の蜜を集めて回る健気な習性を持ったミツバチの労働に依存している。やっていることは二千年前と変わらない。私だって偉そうなことは言えない。働き方は会社に入った30年前と大して変わっていない。ネット時代の今でも、案件ープロジェクトーの噂を嗅ぎつけて世界のどこへでも身一つで出掛けていく。注文に結びつく確率は10にひとつもない。確実に蜜を持ち帰るミツバチの方がよほど優秀だ。
 
 私は巣蜜を食べて少し元気になった気がした。地の物を頂くのはどこか土地の神様を味方に付けることに似ていると思う。今回は縁起がいい。私は初めての顧客訪問に“出撃”した。
 
 この会社にはその後も何度か足を運んで最終的には大きな注文をもらうことができた。溜飲は大いに下がったが上顧客になった途端に私は担当から外された。それは別に良いのだが、イスタンブール郊外の絶品巣蜜を食べる機会がなくなったことだけは今でも残念に思っている。

 

(完)

 

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