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蜂蜜エッセイ応募作品

ジョンの贈り物

南波はんな

 

 戸棚を開けると、高さ20センチほどの一風変わった形をした空き瓶が目に入る。ずんぐりむっくりとして急に口が細くなり、子どもを何人も生んで育て上げた女性の体型とよく似ている。蜂蜜がたっぷり入ったこの瓶が、アメリカに住むジョンおじいちゃんから送られてきたのは10年前のことになる。
 
 末期の大腸癌が見つかったとジョンから連絡があり、当時高校生だった娘と慌てて飛行機に乗った。友人たちに支えられ在宅生活を選択した彼は、私たちが着く時間を見計らって軽食を用意しておいてくれた。丸く突き出したお腹は健在だったが、ほっそりした手足と顔色の悪さがすべてを物語っていた。ポーチにあるテーブルにはクラッカーと様 々な味のディップが並べられ、朝から台所に立っていた姿を想像すると涙が浮かんだ。私が大好きな蜂蜜はテーブルの真ん中置かれていた。
 友人にも声をかけ、養蜂場のオーナーが経営する食堂で最後の夜を過ごす。楽しいお喋りと飾らない家庭料理の時間は、永遠に続いて欲しいものだった。帰り際に私が蜂蜜の瓶を買おうとすると、「もう用意してあるから」とジョンが耳元でささやいた。割れ物であることや食べ物であることから、写真と一緒に航空便で送ると、細やかな愛情は別れの直前まで私たちを包み込んでくれた。
 
 帰国して1週間後に蜂蜜の瓶が届いた。1ヶ月後、ジョンが天国に召されたと友人から手紙が届いた。蜂蜜は瓶の半分に減っていた。それからしばらくは蓋を開けず瓶を眺めるだけにした。いつどんなふうに残りの蜂蜜を口にしたのかは覚えていない。甘いのに寂しさがこみ上げてくる感覚だけが体に残っている。
 りんごジャムやしそジュース、しょうがシロップに野菜ピクルスと、今でもジョンからもらった瓶は大活躍だ。どんな物でもほんのり蜂蜜の味がするのは、私の気のせいだろうか。

 

(完)

 

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