アカシアで花束を
乱暴に靴を脱ぎビジネスバッグを放り捨てると、大股で6歩、そのままベッドになだれ込む。
心身ともに疲れ切った金曜の夜11時。
何も考えられずに意識が眠りに沈みゆくなか、なぜか『働き蜂』という単語が頭に浮かんで離れない。
『働き蜂』――。
そう。朝から晩まであくせくと働き、家と会社を往復し、週末には泥のように眠るだけ。
ふふ、まさに自分にお似合いじゃないか。
ぼろぼろになった身体にムチを打って起き上がると、カップにミルクを注ぎ、電子レンジで少し熱めに温めた。
蜂蜜を開け、スプーンに山盛りひと匙、絡ませる。
膜の張ったミルクへ掻き回すと、心なしかミルクが微笑んだような気がした。
カップをかたむけ、一口。
ミルクとともに、蜂蜜の香りが遠くから身体に染み渡る。
甘くて、けど、くどくはなく、自然と笑顔にしてくれる、懐かしい味わい。
これだよ、これ。
疲れたとき、おふくろがよく作ってくれたっけ。
身体が欲しているのは、蜂蜜という優しさなのかもしれない。
『働き蜂が一生のうちに運べる蜂蜜はスプーン一杯分』と聞いたことがある。
人間はたったひと匙で、蜂の一生を掬い取ってしまうのだ。
そう考えると、尊いものをいただいている気がして、丁寧に味わいながら飲み干した。
身体の内側からぽかぽかと、蜂たちが元気づけてくれているようだった。
よし、来週からまた、がんばろう。
(完)
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