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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

日常に散らばる警告色

加藤エヌ

 

 或蜂の話です。
 村人も三〇人程の辺鄙な小村の外れに一匹の蜜蜂が生を享けました。其の名を蜜子と言いまして、名前の中に蜜を入れるという伝統を忠実に習った蜜蜂界隈ではごく普通の名前です。
 蜜子は女王様の為に立派な蜜蜂になると決めておりました故に、どんな汚れ仕事も率先して引き受けました。
 蜜蜂と云えば、もう皆さんの中にも、御存知の方が少ないかも知れません。蜜蜂と云うのは、「女王蜂」「雄蜂」「働き蜂」と三種に分かれておりまして、卵を産むのが女王蜂、生殖をするのが雄蜂、蜜を作り花粉を集め時には育児に精を出し、時には掃除を任される のが働き蜂と何千年も前から決まっております。
 蜜子は働き蜂でした。過ぎ行く日 々を、短き青春を、蜜蜂としての誇りを蜂蜜へ昇華させました。
 彼女の作った蜜は冬の夕焼けの如く黄色く光り、犯罪的な甘さを有しました。勿論其の噂は川面に小石を落とした様に広まり、隣の巣へと伝わったかと思うと、また其の隣へと言い伝えられ、ついには三里離れた隣町まで伝えわりました。
 こちらは隣町にて生活している雀蜂です。三里離れた小村に絶品と称された蜜を作る蜜蜂がいると聞いて仕舞えば行かない手がありません。雀蜂は大きくて自慢の羽を千切れる程に上下して風の如く飛び発ちます。
 「如何にも其の蜜は針が飛び出るほど旨いらしい。涎が出てきた。早く奪い取ってやろう」
 「それはいい。ついでに蜜蜂共の身体は細切れにして豪勢な晩餐会を開こうではないか」
 雀蜂は濁った曇天を黒に染めながら全速力で進んでいきます。
 雀蜂共が二里程進むと鬱蒼とした森が徐 々に明るくなっていき小振りな花畑が突如として現れました。そこには一匹の蜜蜂が花粉を集めていました。蜜子です。
 「そこのお嬢さん。僕たち蜜蜂さんのお友達なんだけど、迷子になって仕舞ってね。どちらに行けば着くだろうか」
 「あら、東に行けばあるわよ」
 「御親切に有難う」
 雀蜂が飛び去って行くのを見送ると、何も知らない蜜子は又自分の仕事へと戻って行きました。

 

(完)

 

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