北野ちあき
大学時代、友人Tに蜂蜜の食べ比べをさせてもらったのが始まりでした。私と、もうひとり誘われていた友人Wは、ひとり暮らしをしていてお金もなく、蜂蜜なんて高級な嗜好品は買えなかったときのことです。
私たちは、匙を片手に思ったのでした。おいしい蜂蜜は、とてつもなくおいしいと。将来、働きたくなんかないけれど、おいしい蜂蜜を買うために、働こうと。
働き始めて、蜂蜜を買うようになりました。買うようになってから、前に食べさせてもらった日本ミツバチの蜂蜜はとんでもなく高級でおいしかったこと、ヨーグルトやトーストにあう蜂蜜はそれぞれ違うこと、蜂蜜を買っても思いのほかすぐに瓶が空っぽになってしまうことを知りました。それでも、いろんな蜂蜜を試してみたくて、旅行先でみつければ買い、お店に入っては買いを繰り返していました。
その話を、久しぶりに会った友人Wにすると「わかる」と神妙な顔で頷かれました。
「蜂蜜売ってるとみちゃうし、買っちゃう」「わかる」
蜂蜜を楽しむにつれ、他人にもこのおいしさを知ってもらいたくなりました。いろんな方に、誕生日に贈り、お歳暮として贈り、お土産として贈りました。
不思議なことに、いや当然と言ってもいいのかもしれませんが、おいしい蜂蜜を渡した相手は、自分用に蜂蜜を買うようになります。ずぶずぶと、蜂蜜の魅力に憑りつかれてゆくのを、私は蜂蜜をなめながらみていました。まるで過去の私たちのようでした。ようこそ、ここは楽園です。
私は、蜂蜜がおいしいということを知ることができて、しあわせです。
もちろん、おいしい食べ物を食べることに対して、しあわせを感じているのはありますが、蜂蜜によってつながった縁も、たくさんあるのです。これからも、私は蜂蜜をなめたいし、誰かに贈ることでしょう。そして、蜂蜜がすきな者同士、蜂蜜について、楽しく話をすることでしょう。
そうあることができて、私は、とてもしあわせです。
(完)
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