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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

Give and Take

船山直子

 

 幼い頃はよく風邪をひいて学校を休んだ。すっかり食欲を失くしている私のために、母は蜂蜜入りの生姜湯を作ってくれた。生姜はピリリと刺激が強くて苦手だけど、その後ろからふわりと押し寄せてくる甘い波は、弱って敏感な心と身体を癒してくれた。当時、蜂蜜は高級品で、ジャムみたいに気軽にパンに塗れるものではなかった。それでも蜜蜂への愛が募る私は、親の居ない間に戸棚を開けてこっそりスプーンで掬っていた。
 少し大きくなって、蜂蜜がどうやってできるのかを知った時は衝撃だった。あんな小さな昆虫たちが集めた大切な食べ物を横取りするなんて。人間ってなんて身勝手なのだろう。だからといって私ひとりが不買と決めても、砂漠の中の砂のひと粒を取り除くようなもの。考えた末に閃いたのは、蜜蜂と共存するということだった。人間が蜜蜂の住みやすい環境を保つこと。花や緑、綺麗な空気に気遣う。そうして出来上がった蜂蜜を分けてもらう。
 それからは、庭や公園で蜜蜂とすれ違うたびに、私は彼らを意識して見るようになった。花から花へ忙しなく飛び交う姿に「そんなに一生懸命働かなくてもいいのに」と声をかけたり、ちょっと勇気を出して目を合わせようとしてみたり。ある雨の日、窓枠で動けなくなっている一匹を見つけた。仲間とはぐれてしまったのか。なんだかいたたまれなくなり、傍で見守っていた。空が青くなって陽が差すと、彼はヨイショッと飛び立っていった。
 自由に蜂蜜を食べることができるようになったことは、私にとって大人になって良かったことのひとつ。毎朝、そのとろりとした金色の蜜を掬うたびに、私は蜜蜂たちを思う。そして丁寧に味わいながら、甘さの奥に潜んでいる命や自然が語りかけてくれるのを待つ。満たされた穏やかな時間に感謝する。これから先も、人間と蜜蜂がお互いを思い遣りながら、自然の中で共存して行けますように。

 

(完)

 

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