江藤弘憲
マヌカハニーなるものがある。なんでも、強い殺菌力をもつ希少な蜂蜜……ということだ。体内に入っても殺菌効果が続くというのだから、これは凄い。お腹に収まった後も体内で悪い菌をやっつけてくれるのだから、エライ。
しかし、そのような効果をキチンと持った「本物」のマヌカハニーは、非常に高価だ。おいそれと私のような一庶民がホイホイ買えるものではない。もしかしたら、田園調布のセレブマダムたちなら、マヌカハニートーストにマヌカハニーヨーグルト、マヌカハニー混ぜご飯やらマヌカハニー風呂といった贅沢三昧をしているかもしれないが、私には彼女らの華麗なる生活は計り知ることは出来ないので何とも言えない。
実は、私もそのマヌカハニーなる魅惑の食材を口にしたことがある。
それは、私が高熱を出して勤務先を数日休んだ時だ。
家で一人寝込んでいるところに、付き合いのある会社の社長が突然やってきた。
普段からこんな私の事を気にかけてくれ、友人としてプライベートでも良くしてくれる奇特な人物だ。
その奇特な彼は、大量のスポーツドリンクやら栄養剤やらが入った重いコンビニ袋をふらふらの生ける屍と化している私に手渡した後、バッグから小瓶を取り出した。
それはまさしく、マヌカハニーの瓶だった。
「なんかこれが効くって聞いてさ」
そう言う彼に、何も知らないその時の私は「へぇ」としか答えなかったわけだが、彼が帰った後、マヌカハニーを一口舐めながら値段を調べて驚いたものである。
彼は決して自分の経済力を自慢したかったわけでは無い。『風邪に効くというものがあるなら買って行ってやろう』という優しさがそこにはあった。
おかげさまで私の体調はそのあとすぐに良くなった。
その凄い蜂蜜は今でも九割ほどの中身を残したまま、もったいぶったようにキッチンの棚に座っている。
小さな瓶に詰まった優しさは、ずっと残り続けるだろう。
蜂蜜が腐らないのは、それが優しさそのものだからかもしれない。
(完)
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