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蜂蜜エッセイ応募作品

迷子のマヌカハニー

かるめん

 

 今から20年あまり前、ニュージーランドで結婚式を挙げ、その翌日からレンタカーで南島を回る旅に出た。
クライストチャーチからマウントクックを目指し、ガイドブックの片隅のはちみつ屋さんに立ち寄ることにした。
マヌカハニーという言葉にひかれた。今ほど有名ではなく、私も初めて聞くはちみつの名前だった。どんなものに出会えるのかワクワクして、地図をながめた。
 信号機のない道をひたすら走ってやっと小さな町にたどりついた。住所をたよりに店を探したが、なかなか見当たらない。道を聞こうにも誰もいない。ぐるぐるぐるぐる路地を走った。
 「暗くなってしまうから、あきらめよう」
 「えー、もう少しだけ」
 一番端っこの家を回ったところに赤い小さなプレートを見つけた。ガイドブックと照らし合わせて、そこがお目当てのはちみつ屋さんだと分かった。
 私のつたない英語の質問にゆっくり丁寧に答えながらはちみつをスプーンに出してくれた。少し苦みのあるその味がしばらく口に広がる。マヌカの一番味がするというものをお土産に買った。
 「ではまた出発」
 運転している夫の横顔を見ながら、この人が旅の相棒だとしっくりきた。
 コロナ禍で最近またマヌカハニーを手にするようになった。瓶を開けるたびに鼻の奥をくすぐるあのスモーキーなにおいであの旅が思い出される。
 私の夫との旅はまだ続いている。そして、
 そんなに甘くない苦み多いかけがえのない愛しい日 々をせっせと集めて蜜にできるよう蜂のように飛び回る私の旅もまだまだ続く。

 

(完)

 

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