冨山栄子
近くに住む妹から、携帯電話に急にお願いと言うメッセージが入っていた。何の事かと思ったら、今年は果林の蜂蜜漬けは作ったのかとの問い合わせだった。たまたま一週間前に作ったところだったので、あるから取りに来たら?と返事した。何でも孫が朝になると咳がひどくなるとか。もし、昨年の今頃なら無理だったろう。庭の果林はひとつも実を付けなかったからだ。どうやら果林は一年休むらしい。蜂蜜と果林は相性が良い。果林の他にレモンや他の果物とも非常に合う。蜂蜜は相手の良さを上手に引き出してくれる。主役にも引き立て役にもなる優れものだ。
私が子供の頃、生家の近くに沢山の蓮華畑があった。蓮華畑に入って、花の首飾りを編んで居ると、近くに数多くの蜜蜂が群れていた。私は蜜蜂を少しも怖いとは思わず、むしろ遊び相手くらいにしか思って居なかった。
空き瓶の中に蜂を閉じ込めて、蜂の羽根を摘まんだ時、指先にチクリとした痛みが走った。親指に小さな針が刺さっていた。刺した蜂は花の中でもがき続けたがそのうち静かになった。蜜蜂は一度刺すと死んでしまうのだという事を後から知った。蜜蜂にすれば必死で我が身を守ろうとしたのだろう。
スプーン一杯の蜂蜜を一生掛かって集めると言う。私は遊びの為に蜜蜂の命を終わらせてしまったのだ。後悔の思いが私の心を刺した。スプーンからトロリと落ちて来る蜂蜜を見る。何万匹の蜂蜜の仕事に感謝しつつ大切にその味を味わって居る。
(完)
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