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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ミツバチの魔法のランプ

一言カイ

 

 まだ入学前の子どもだった私は歯茎に口内炎が出来ました。痛がる私におばあちゃんが蜂蜜を塗ってくれたのです。だから口にしたと言っても食べたわけではありません。しみいる痛みと広がる甘い香りに、うれしいやら悲しいやら。口内炎が治った後、おばあちゃんに頼んでその蜂蜜を舐めさせてもらいました。「少しだけだよ」、と言われて恐る恐る瓶の中に人差し指を入れ、黄金色の指先を舐めました。舌の上に乗せた初めての蜂蜜は、歯茎に塗ったものとは違いました。口の中で独特の甘みと酸味が広がって、芳醇な香りが鼻に抜けていきました。自分の鼻が魔法のランプになったように、身体中の神経がじわ~っと毛穴から湧き出るような不思議な感覚でした。まるで味わってはいけないものを口にした気分でした。
 小学校に入ると蜂蜜を口にする機会が何度かありました。給食や、ホットケーキのシロップでしたが、どれもあの時の味はしませんでした。甘くておいしいのですが、魔法のランプにはならないのです。そして蜂蜜は特別なものではなくなりました。
 社会人になって間もなくの頃、テレビでアフリカの部族のドキュメンタリー番組を観ました。部族の青年が求婚の証として、相手の父親に蜂蜜を贈る過程が描かれていました。青年はジャングルの中で蜂の巣を探し出し、裸の身体を無数の蜂に刺されながら蜜の詰まった巣を命懸けでもぎ取ります。それを大きな葉に包んで相手の父親のもとへ向かいます。父親はナイフで蜜蓋を切って口にします。
 「最高の蜂蜜だ。これでおまえも一人前の男だ」
 刺されて腫れあがった青年の顔は、泣いているのか笑っているのか分かりません。次の休日、私は百貨店で分不相応な高価な蜂蜜を買いました。財布には少し痛かったけれど、蜂に刺されずに手に入れることができれば安いものです。琥珀色の瓶の蓋を開け、人差し指をそっと入れると、セピア色の写真のように、あの時の感覚が甦りました。

 

(完)

 

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