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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

運命共同体

横山 翔

 

 I君が頭を押さえて泣き叫びながら部屋に入ってきた。彼は呪文のようにこの言葉を繰り返す。「ハチニササレタ。ハチニササレタ。」すぐに先生に報告し、I君は病院へ連れていかれた。夜にはすっかり元気になったI君と部屋でババ抜きをしていたことを覚えている。
 あれは小学校の修学旅行での出来事だ。私自身は刺されていないのだが、あの日以来ひどくハチの存在が怖くなった。私が進む道に彼らがいたら、どこかへ去るまで私は歩みを進めない。なぜ彼らは人を刺すのだろうか。I君が彼らに何をしたというのだろうか。のちにわかった話だが、I君はハチの巣に石を投げていたらしい。刺されて当然である。
 数年前、ミツバチが異常に減少しているというニュースが頻繁にやっていた。私は人間の敵が減るのはいいことじゃないかと感じた。しかし、それは地球に非常にまずい影響を及ぼすらしいという説明が加えられた。彼らの存在は生命体を維持するうえでとても重要な働きをしているらしい。詳しくは忘れてしまったが。つまり、彼らは我 々人類の天敵でもあり、よきパートナーでもある運命共同体なのだ。あのお尻に立派に携えた針で今日も誰かが刺されているというのに。しかし、それは彼らも同じだ。必死に作り上げた巣を壊され、食べられてしまうのである。我 々が刺されるのも納得せざるを得ない。我 々は食べ、彼らは刺す。そして彼らは我 々の生きる環境を整えてくれる。素晴らしい存在ではないか。そう、彼らは我 々の味方だ。そう思えてきたとき、私の進む道に彼らがいたら、今度は会釈でもして通ってやろうと考えを改めた。そんなことはできないが。
 今日もまた、どこかで彼らの巣が壊され、誰かが刺されている。その痛みはどれくらいなのだろうか。そんなことを、はちみつをたっぷりのせたトーストをかじりながらふと思った。

 

(完)

 

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