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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

押し入れの蜂蜜

山田和彦

 

 子供のころ、我が家で蜂蜜は貴重な食べ物の一つだった。多分、今でもそうだろう。特に風邪を引いて喉が痛かったときなど、母が特別だよと言って食べさせてくれた。
 蜂蜜の瓶は子供には届かない、押し入れの二階部分に置かれていた。甘い物が無性に食べたい時期でもあったので、廊下からミシンの腰掛を運びのぞいてみた。そのとき、予想もしていなかった物を見て腰を抜かすほど驚き、腰掛から落下してしまった。幸いケガはしなかったが、真っ白い蛇がとぐろを巻いていたのだ。
 「蛇が押し入れに……」
 私は内職の割烹着をたたんでいた母に、慌てて報告したが「なんであんたが押し入れなんかのぞいたの」と逆に言われ、蜂蜜とは言えなかったのを覚えている。
 母はそのとき、白い蛇は家の守り神だから、いたずらしたり、触ってはいけないとも言っていた。だが、母は私の思いを察したのか、、そっと蜂蜜の瓶を降ろすと、スプーンで小皿に分け食べさせてくれた。そのときの蜂蜜の甘く美味しかった記憶は今でも脳裏に残っている。
 その後、白い蛇がどうなったのか、聞きはしなかったが、いつの間にか姿を消していたらしい。
 目を盗んでまで食べたかった蜂蜜も、今では朝の食卓にイチゴジャムと一緒に置かれているが、あの濃厚な蜂蜜をパンに塗って食べるとき、時 々当時を思い出すが、同居している孫たちには蛇の話は内緒にしている。
 昨年の春、庭の金柑の枝に蜂が群がっていた。
 いずれ去っていくだろうと、さほど気にも留めていなかったが、蜂の群れは日を追うごとに膨れ上がっていき、細い枝が蜂の重さに持ちこたえられるのかと思ったほどだ。
 インターネットで調べると、女王蜂が巣を離れたときに起こる現象で「ぶんぽう」と言われているらしい。数年前、亡くなった母が、蜂は手で追い払ったり、危害を加えない限り、人を襲わないと聞いていたので、家族に言ってそっとしておくことにした。

 

(完)

 

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