まゆーん
「ママ、くるくるしたい!」
2歳になった娘の、最近気に入っている朝ごはんのメニュー、それは『くるくる蜂蜜ヨーグルト』。それまで、ヨーグルトは酸っぱいからいやいや、と首を横に振り、器を手で押しのけていた娘。ダイニングテーブルには、いつも白いヨーグルトがポツンと悲しげに取り残されていた。
ある時、蜂蜜の入った容器を逆さまに手に持ち「よーし、じゃあママが今からこのヨーグルトに蜂蜜の魔法をかけるから、よーく見ててね。」と娘の耳元で囁いた。
かしこまった咳払いをひとつ、呼吸を整える。蜂蜜の入った容器のキャップを少 々大袈裟に取り外し、テーブルの上にゆっくりと置く。容器の腹を両手の指で優しく押すと、艶やかでとろりとした蜂蜜がつーっと細い糸のように白いヨーグルトの上に垂れてきた。
不思議そうにじっと見つめる娘。私は手を小刻みに揺らし、白いキャンバスの上に蜂蜜で細やかなフリルのように模様を描いて行く。それは、どこか知らない異国の文字で描かれた呪文のようにも見える。すると、「わあ、おはな!」娘は嬉しそうに声をあげた。黄色いお花畑にでも見えたのだろうか。しばらくして私は、蜂蜜の容器を厳かにテーブルに戻した。
「これは、蜂蜜の魔法だよ。今から、このスプーンでゆっくりかき混ぜてごらん。」小さなデザートスプーンを娘に渡すと、神妙な顔をして両手でそれを持ち、ヨーグルトをかき混ぜはじめた。
「くーるくる、くーるくる。」
私が声をかけると、娘も一緒に、
「くーるくる。くーるくる。」と唱えた。
ヨーグルトは白と黄色のマーブル模様になって、宇宙の銀河系のように渦を描く。窓から差しこむ朝の光が、私たちを包む。
「さぁ!蜂蜜の魔法がかかったよ。食べてごらん。」
娘にそう声をかけると、スプーンで掬ったヨーグルトを、口にゆっくりと運んだ。すると、娘の目が大きく見開き、口いっぱいにヨーグルトをつけたまま笑顔になった。
「あまーい、まま!まほうだよ!」
娘はスプーンで何度もヨーグルトを掬っては口に運ぶ。あっという間に器は空っぽ。今度はスプーンをテーブルに置いて、人差し指で器についたヨーグルトを掬い、夢中になって指を舐めはじめた。
それからは『くるくる蜂蜜ヨーグルト』は、我が家の朝の定番メニュー。
蜂蜜は美味しく、しあわせにしてくれる魔法。娘は今も、そう信じている。こんな些細な日常の風景も、私にとってはかけがえのないしあわせ。静かな蜂蜜色の朝の光と共に、いつまでも心を温めてくれるだろう。
(完)
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