とみか
おじいちゃんの作る蜂蜜が、だいすきだった。
蓋を回すタイプの瓶に入っているそれは、砂糖のように白っぽくなり固まっている。添加物を一切使わない自家製なので、すぐ固まってしまうのだ。
お母さんはふわふわのホットケーキを作ると、いつも決まってバターとおじいちゃんの蜂蜜を塗ってくれた。固まっていた蜂蜜は、アツアツのホットケーキの上に乗るとすこーしずつトロトロの蜂蜜に戻っていく。それを食べると私はとても幸せな気持ちになった。
養蜂をしていたおじいちゃんは、大きな網がついた養蜂帽を被って、ブンブン飛び回るミツバチの群れの中に飛び込んでいく。その姿は幼い私にはなんともたくましく見えた。
「今日もええ蜂蜜が作れたいね」
おじいちゃんはミツバチまみれになりながら笑顔でそう言った。
私が小学校三年生のとき、おじいちゃんが死んだ。病院に行ったときにはもう末期癌で、手遅れだったらしい。彼はすぐに入院したと思ったら、すごい勢いで死へのステップを踏み、入院して数週間経つとあっけなく逝ってしまった。
通夜も葬儀も火葬も終え、私は両親と実家に帰った。ふとキッチンカウンターを見ると、おじいちゃんが作った蜂蜜がおかれていた。いつも通り、あの瓶に入っていた。一目見ておじいちゃんの蜂蜜だとわかる。例によってそれは結晶化しており、砂糖のかたまりみたいになっていた。
私は蓋をひねり、指を突っ込んで掻くようにして蜂蜜をとり、そのままなめた。口に入れた瞬間はザラザラしていたのに、舌で包むと一気に溶けていき、蜜の甘みが口いっぱいに広がっていった。
気づくと、私の頬に涙が何筋も伝っていた。
ああ、もうこれが最後のおじいちゃんの蜂蜜になっちゃったんだね。
おじいちゃんがいなくて、寂しくなったらまたこの蜂蜜をなめよう。蜂蜜がなくなる頃には、私はきっと強い大人になっているはず。おじいちゃん、天国から見ていてね。
(完)
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