神保 メイ
子供の頃、食器棚の奥に、大きなはちみつの瓶があり、口内炎ができると母がそれを塗ってくれた。白くかたまったそれを人差し指ですくってちょびっとだけ患部につけてくれる。ざらりとした感触。コクのある香り。舌を貫くような甘さ。薬なんだから絶対になめちゃだめよと母が言うけれど、つい誘惑に負けてなめてしまう。そんな罪悪感がスパイスになったのだろうか。こんなおいしいものは世の中にはないと思い、口内炎が治るとちょっぴり悲しかった。できることなら、カレースプーンですくって思う存分なめたい。だけどはちみつはあくまでも薬。それに瓶は重く、高いところにあって、取ることはできない。食器棚をうらめしい気持ちで眺めながら、また口内炎ができないかなあと思った。
大人になって、口内炎にはちゃんとした薬があると知った。だけどやっぱり子供たちに口内炎ができると、私は彼らにちょびっとだけはちみつを塗ってやり、薬なんだからなめちゃだめよと諭す。そして私はといえば、こっそりパンやヨーグルトにかけて食べる。もちろんたっぷりカレースプーンで。
(完)
蜂蜜エッセイ一覧 =>
蜂蜜エッセイ
応募要項 =>
Copyright (C) 2011-2025 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.