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蜂蜜エッセイ応募作品

千円トースト

小宿 久里

 

 その喫茶店は地下一階にあった。らせん階段を下りると、マノスという看板が見えてくる。1923年創業という長い歴史を持つその喫茶店は、入口からレトロな雰囲気を醸し出している。
 「お好きな席へどうぞ」男性店員に迎えられた。店内はゆったりとした懐かしい音楽が流れている。僕たちは2人掛けのテーブル席へ座った。今日は久しぶりに妻と街で買い物をした後この喫茶店へ寄ったのだ。
 「暑かったね」妻が帽子を脱ぎ額の汗を拭きだした。僕も帽子で脱いで風を仰いだ。注文を取りに来た店員へ僕はコーヒーとマヌーカはちみつトーストを頼んだ。妻はアイスティーとショートケーキだ。僕たち夫婦がここに通いだしてから十二年が経つ。
 この喫茶店を初めて訪れたのは、子どもを置いて久しぶりに食事へ行った三次会だった。落ち着きのある店内に僕は新鮮な気持ちがした。居酒屋で嫌というほど食べた後だったが、甘いものは別腹と言わんばかりに二人でメニュー表を見ていた。
 「このトースト千円もするけど ・ ・ ・なんでだろう」僕が不思議だった。
 「これは、はちみつが高いんだと思うよ。マヌーカって聞いたことがあるもん」妻はそのはちみつのことを知っていた。物珍しさから僕はその千円トーストを頼んだ。
 「うまい」一口食べた瞬間に出た言葉だった。そのはちみつは甘いけど、甘すぎない。でもその甘さが長続きするのだ。その上、そのトーストはブレンドコーヒーと良く合うのだ。
 二人でご飯を食べに行くなんて仲が良い夫婦に見えるかもしれない。でも僕たちはその食事を最後に別れるつもりだった。思い出作りのために行ったお店で予想もしていなかった食べ物と出会ったのだ。
 「美味しかったね。また来ようか」喫茶店を出ると二人とも満足していた。それからも僕たちは時 々二人で食事へ行く。味気の無くなっていた夫婦の間に、上品な大人の甘い感覚を教えてくれたトーストに感謝したいと思う。ありがとう、千円トースト。

 

(完)

 

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