まちゃこ
結婚一年目、私は彼が風邪をひくのをほんの少し待っていた。
そして、夏から秋にかけての季節の変わり目、彼がとうとう「なんか喉がいがらっぽい」と言った。
私はその夜、せっせと大根を小さなサイコロ状に切るとタッパーに詰め、そしてたっぷりはちみつをかけた。あとは冷蔵庫で寝かせるだけ。
次の日、大根からはしっかりと水分が出て、前日よりもさらりとした液体になった。私はそれをグラスに入れると彼に渡す。
「何これ」
「はちみつ大根。喉に効くから飲んでみて」
彼は最初嗅ぎなれない匂いに警戒したものの、物は試しとそれを飲み干した。
「思ったより美味しい」
そして思いの他喉の違和感に効いたのか、彼は時 々冷蔵庫を開けて、はちみつ大根のシロップを飲んでいたようだった。
夕飯が終わった後、私は緑茶を淹れると、はちみつ大根のタッパーを開けた。
小さく縮こまった大根を小鉢に移し、爪楊枝を刺し、お茶と一緒にテレビを観ている彼のところに持っていく。
「これも食べられるの?」
「私はこれが好きなんだよねぇ。風邪をひいたら、はちみつ大根作って、これを食べるのが楽しみ」
「おばあちゃんみたい」
「いいじゃん」
私はしわしわの大根を口に放り込む。
「ん、美味しい」
薄甘いような、少し辛いような、いつ食べても不思議な塩梅だ。
ぽりぽりと小気味の良い音が響く。
彼も真似してぽりぽりと大根を齧った。
彼のちょっと猫背気味でお茶を啜る姿に、
「おじいちゃんみたい」
私は思わずそう言った。
「そっちだって」
湯呑を手に、互いに少し笑った。
どうやら私が風邪をひいた時は彼がはちみつ大根を作ってくれるそうなので、元気で過ごしつつ、その日を待ちたいと思う。
(完)
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