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蜂蜜エッセイ応募作品

雪と蜂蜜レモン

藤原 彩

 

 小学校に入学する前の冬だったろうか。母と双子の兄との3人で雪かきをした。子供用のつなぎになったスキーウェアを着て、うさぎの形をした毛糸の帽子をかぶった私は、自分の背丈をはるかに超える雪を小さなスコップでせっせと崩しては運んでいた。しんしんと止むことのない雪の中、小さな女の子がどれほど頬を紅潮させて手を動かしても運べる雪は大した量ではない。ほとんどを母と兄がやってくれたのだろうと記憶している。
 そのころ、我が家の坂道の下には「広場」と呼ばれる空き地があり自動販売機が置かれていた。その自動販売機で、母がお手伝いを頑張ったからと蜂蜜とレモンの温かいジュースを買ってくれた。その飲み物の美味しかったこと美味しかったこと。冷えた体に染みる温かさ。口の中に広がる蜂蜜の甘さ。目の前に見える家に帰ったらホットミルクでもココアでも飲めるのに、わざわざ外で買ってペットボトルで飲める贅沢さ。いろいろな要素が加わって、今まで味わったことのない特別な味だった。開けたばかりの道に容赦なく降り積もる真っ白い雪を眺めながら、この味を堪能できるならいくらでも雪が降っていいとまで思った。
 今では両親が離婚してしまい、母と双子の兄とは一緒に暮らしていない。坂道の下の「広場」もコンクリートで埋められ、駐車場となってしまった。自動販売機ももう置かれていない。だからもうあの味を再現することは不可能なのだ。だけど、毎年冬がきて雪を見ると、蜂蜜レモンが飲みたくなる。十年も前の出来事なのに、私の記憶と味覚は覚えているのだ。床の冷えた台所に行き、お気に入りのマグカップにレモン汁と瓶詰の蜂蜜をたっぷりと入れお湯を注ぐ。この瞬間の幸福は私の冬の風物詩。蜂蜜レモンの美味しさとこの幸福が味わえれば、たくさん雪が降って雪かきが大変でも、雪のせいでいつもより早く学校に向かわないと遅刻してしまう日でも、雪を愛おしいとさえ感じてしまう。そんな特別な思い出の味。

 

(完)

 

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