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はちみつ老人

八代 穣

 

 サラリーマン時代のモーニングコーヒーは、私の心身に活力を与えて呉れたものだ。引退して年金生活の今は、目盛の付いたコップにはちみつを入れてお湯を注ぎ飲む。渇いたのどにやわらかい甘い液体が注がれる。飲んだ後体の中に滋養が広がっていくそんな感覚を覚える。水やジュースを飲んだ時とは違い、胃全体が温かく丸くなる感じがして心地よい。以前潰瘍になったことも関係していると思うのだが、この習慣はもう数年続いている。量が残り少なくなると、妻が買い足してくれたが、この3月肺炎で亡くなった。買い物は歩きか自転車、はちみつはスーパーで数本まとめて買う。
 私は少年時代ポリオ、小児麻痺に罹り、小学校1年生を2回経験する大病を患った。終戦直後で、モノが不足していた時代である。当時秋田市に住んでいたが、家の裏はアカシアの林になっていた。6月中旬になると白い花が咲く。長く垂れた花をそぼ降る中で見ると艶めかしい花で、林の中は香水のような香りが漂っていた。晴れ渡った日は熊蜂や蜜蜂が集まって来て、うるさいほどの羽音をたてる。そんな環境の中で父は藪に蜜蜂を飼っていた。食料難の中での貴重な栄養源で、私には牧場から取り寄せた牛乳にはちみつを入れて飲ませてくれた。長期療養を余儀なくされたが、手足に麻痺が残らすに5体満足で治った。主治医や両親ほか大勢のみなさんのご協力の賜と深く感謝している。退院した時母が「はちみつが、体によく効いたのよ、坊や」と、言われた言葉が未だに耳に残っている。
 数年前郷里を訪れたことがあった。アカシアの林は無くなり、そこにはマンションが建っていた。時の流れと言えばそれまでだが、あの林の藪の中で蜜を採っていた父の笑顔が、忘れられない。

 

(完)

 

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