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蜂蜜エッセイ応募作品

琥珀色の隠し味

かま

 

 親戚のおじさんのリュックの中には蜂蜜の瓶が入っている。定期的に現れてはその瓶を置いて帰った。おかげで私の家は蜂蜜に困ることが無い。朝食のパンの隣、ヨーグルトの隣、紅茶の隣、せわしなく過ぎゆく毎日の隣に。どこにいたって不思議じゃない存在なのだ。
 そんな日常に降りかかってきたウイルスは私を含めた多くの人を家に閉じ込めた。以前と変わらず、時間は過ぎてもやはり家の中だけで過ごすと何だか味気ないものになった。ならば新しいことを始めようと考え、私は料理を始めた。きっと皆同じことを考えているからスーパーの製菓コーナーのホットケーキミックス粉が空になっていた。
 お菓子作り以外も夕食を作ったりと料理全般に触れだすと自分とまっすぐと向き合うことが出来、楽しさを見つけることが出来た。美味しさを求めると何が必要か、考えていくと愛情やまごころが一番の美味しさだけれど味覚に一番に伝わる味が必要だと気付いた。だから私は白砂糖の匙を置いて、瓶に入った蜂蜜を掬った。蜂蜜の甘さは砂糖の甘さよりも先に来て、口の中いっぱいに広がる。だから沢山は入れずにとろりとひとすくい、隠し味にする。料理の中に落とされる琥珀は美しく、作った者だけが見られる彩りだ。完成した料理を食べて、あぁ甘さがちょうどいい、コクがあるね、だなんて褒められて上機嫌の私。だって私の愛情といつも傍にある琥珀色の隠し味があるから。息詰まる日 々に甘美な宝石で温かい幸せを。

 

(完)

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