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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

祖母の家の宝物

夏秋 香介

 

 幼稚園の時から、夏休みは信州の祖母の家と決まっていた。最初は母に手を引かれて、小学校からは一人で、SLに乗って出かけた。
祖母の家での楽しみは、右隣のヒロちゃん、左隣の年下のカッチャン達との蜂の子獲りだ。
 祖母の家は、田舎には珍しい洋館風の背の高い二階建てで、屋根の庇(ひさし)に毎年いくつもの蜂の巣ができる。長い竹竿(たけざお)を器用に操(あやつ)って、屋根下の巣を弾(はじ)いたり、二階の窓から身軽に乗り出して大屋根の巣を落とすのは、もっぱら年上のヒロちゃんだ。落ちた巣を急いで拾って、飛びだした蜂の子を丁寧(ていねい)に集めるのは、私とカッチャンの役目だ。六角形のそれぞれの巣穴には、うじ虫のような幼虫や成虫になりかけがびっしり詰まっている。もぞもぞ動いているのもある。それらを引き出したり振り落としたりして集めると結構な量になる。祖母は「おっかなかねぇだかやい」と私が窓乗りをしないか心配しながらフライパンで炒めてくれる。軽く醤油をふった香ばしい味だ。格別美味ではないが滋養(じよう)があると言われて先を争って箸(はし)を出す。
 「僕んちの蜂だがやぁ」と、私が一人っ子のわがままを名古屋弁丸出しで言うと、ヒロちゃんも負けずに「オラが取ったづら」と正当な分け前を信州人らしく主張する。カッチャンは母子家庭のせいか、控え目に二人のやり取りを見守っている。「これ食べやぁ」「こっちもいいづら」と二人が譲ってくれることを知っているからだ。私はうじの幼虫には手が出ず、ヒロちゃんはタンパク質が豊富な幼虫を取る。結局、喧嘩(けんか)にはならない。
 蜂の子、イナゴ、ざざ虫の佃煮(つくだに)が信州のB級グルメとしてテレビ番組で特集されて有名になったが、半世紀以上前には、旅館の売店や駅の土産物売り場の片隅にひっそりと置いてある程度だった。新たに開通した高速道路のサービスエリアや道の駅でも蜂の子の缶詰を見るようになると、三人でわいわいと騒いで遊んだ夏の日の祖母の家を想い出す。

 

(完)

 

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