はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

甘い万能薬

佐高 源

 

 子供の頃、蜂蜜はとても貴重なものだった。
 山間の村に住んでいた小学生の私は、近くの二歳年下の子をよく遊んであげていた。その子の家に行くと、庭の隅には、蜜蜂の巣箱が二つも並んでいて、蜜蜂が飛び交っている。
 ものすごい数の蜜蜂がブンブン羽を鳴らして、ひっきりなしに巣箱を出入りしている。忙しく動き回る蜜蜂が珍しくて、いつまで見ていても飽きない。でも、刺されはしないかとハラハラドキドキもしていた。
 ある日、家に帰ろうとすると、その子のお父さんに呼び止められた。一升瓶をぶら下げいる。
 「お母ちゃんに持っていきな」
 一升瓶は、ずしりとした。落として瓶を割っては大変だと、あぜ道を急ぎながらも、胸にしっかりと抱え込んだ。蜂蜜の瓶の上側はとろっとしていたが、真ん中から下はザラザラした白砂糖のようだった。
 「お母ちゃん、満君のお父さんからもらったー」
 「まあー、こんな大切なものを ・ ・ ・」
 母の喜ぶ姿に、私はすごいことをしたんだと、胸がときめいた。
 当時、蜂蜜は薬という感覚だった。頭が痛くてもお腹が痛くても、なぜか、母は蜂蜜をお湯で溶かして飲ませてくれた。病院も近くにはないし、薬といえば『富山の薬』くらいだったからだろうか。蜂蜜は甘くて美味しい万能薬で、元気を取り戻すおまじないのようなものだった。
 貰ってきた蜂蜜の置き場所は分かっている。とても貴重な薬だということもよーく分かっている。でも、よだれが流れてしまう。母が留守の時、細い枝を折ってきて一升瓶の狭い口に差し込み、枝の先についたとろっとした蜜や、ザラザラした白砂糖のようなものを盗み舐めした。瓶を横から見ては、母にバレないかと蜂蜜の減り具合を心配しながら ・ ・ ・。
 この歳になっても蜂蜜を見ると『甘~い薬』かと、ニタッとしてしまう。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.