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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

(無題)

花音

 

 「明日からしばらく夜はおじちゃんの家に行ってくれるか」
 中学に入学して、数ヶ月経った時に突然父から言われた。その少し前から父は体調がおもわしくなく、病院で検査したらすぐに入院が必要となった。当時、母も働いており、夜遅くまで子どもがひとりで留守番することに不安があったようだ。私は父が入院した日から、夜、母が仕事帰りに迎えに来るまで、叔父の家に行くことになった。
 学校が終わると急いで家に帰り、父と自分が食べるおむすびを作って病院へ向かった。当時、病院の夕食は午後5時ごろで、父は寝るまでにお腹がすくのでおむすびが欲しいと言った。父におむすびを届けると少し話しながら一緒に食べ、それから叔父の家に行った。叔父と叔母には子どもがいないので、私の来訪を喜んでくれたが、「中学生が何を食べるのかわからない。」と言っていた。私は「お父さんと食べてきたから何もいらない。」と答えていた。
 ある日、いつものように叔父の家に着くと食卓に蜂蜜の瓶が置いてあった。そして、「甘夏にかけると美味しいよ。」と勧めてくれた。甘夏は前日に父の病院のお見舞いの中から持ってきたものだった。そろりとすくってゆっくりとかけてみた。一口食べると甘酸っぱい味に上品な甘さがかぶさって絶妙に美味しかった。「美味しい。」と言うと「喜んでもらえて良かった。」と言った。
 次の日から私は甘夏蜂蜜が食べたくて、叔父の家に寄るのが楽しみになった。それまで、きちんとした蜂蜜を食べた記憶がないので、本当に嬉しかった。甘夏が終わったら、トーストやホットケーキにもかけて食べた。
 それからしばらくして父が退院し、叔父の家に寄ることもなくなった。父と母に叔父の家で蜂蜜を食べさせてもらっていたことを話したら「あなたが何もいらないと言うからいろいろ考えて用意してくれたんだよ。」と言われた。
 家で食べたことがなくて子どもが好きそうなもの。弱っている気持ちと疲れている身体に元気を与えてくれるもの。叔父と叔母が一緒に考えて用意してくれたのが蜂蜜だった。
 今は叔父も叔母もずいぶん年老いてしまったが、いつまでも大切に思っているし、それはあの頃の少し切ない気持ちと甘い蜂蜜の味が混じったような感覚にも似ている。

 

(完)

 

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