仁科 佐和子
「これ、持ってってくれる?」
義母はテレビ台の上に置かれた大きなハチミツのボトルを私に差し出した。半分ほど残った中身は白く結晶化している。
義父が緊急入院になったと知らせを受け、取り急ぎ実家に駆けつけた私は、突然ボトルを渡されて、(何でハチミツ?)と首を捻った。
甘党の義父はトーストに朝、ハチミツを垂らして食べていた。
「お義父さん、戻られたらまた召し上がるんじゃないですか?」
やんわりと返そうとすると、義母は困ったように小首をかしげて言った。
「ここに置いておいたら戻るかと思ったけど、やっぱりあかんねぇ。」
テレビ台の上のハチミツは何とか溶かそうとエアコンの吹き出し口に義母が置いたものだった。
結晶化したハチミツは、ずいぶん前から食も細り徐 々に弱っていった義父の様子を伝えていた。
私はボトルを受けとると、「お義父さんが退院されたら、小さいサイズのハチミツを買ってきますよ。」と義母に告げた。
(完)
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