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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

甘くふりそそぐ幸せ

ひよ

 

 おやつの時間。
 大好きな祖母との優しい時間。
 祖母は、よく作る蜂蜜レシピがある。
 食パンをトースターでカリッと焼いて、その上にたっぷりの、濃厚なギリシャヨーグルト、甘味の全くない泡立てた生クリームをのせたパンだ。これだけでも美味しい。と感じる人はいるかと思うが、私には、ちょっと酸っぱさの強い癖のあるパンだ。
 だが、このパン、まだ終わりではない。
 祖母は、にこにこと「魔法をかけましょ、はひふへほ。」と唱える。そしてギュッと固くしまった瓶をパカっとあけると、ふんわり花の匂いがする。
 スプーンにたっぷりとすくい、それを持ち上げる。
 つやつやと透明感のある黄色がひかり輝く。
 そしてパンにとろり、とろりと、かかっていく。
 魔法のように、白いパンを美味しそうに化粧する。
 祖母の、蜂蜜な魔法だ。
 サクッとした食感、酸っぱいギリシャヨーグルトにクリームの濃厚さに一瞬で広がる上品な甘さ。
 パンから溢れ落ちるその黄色のはちみつを小さくちぎった
 パンの耳ですくいしっかりと味わう。美味しい。本当に美味しいのだ。そして、祖母が蜂蜜で漬け込んだレモンを包丁で不器用にハート型風に切ったものが浮かぶ苦めの紅茶。
 「おばあちゃんの愛もほーらっ!受け取って」と軽く片足をあげうふふと笑う。まるで、おとぎ話からでてきたようなメルヘンさに笑ってしまいながらも、美しくお茶目に笑う姿が一輪の可愛らしい花のようで空気がパッと華やぐ。そして、そんな祖母を見ながら紅茶を飲むと何故か、甘く感じる。優しく、ふわっと甘くなる。
 祖母と何でもない会話をしながらパンを食べる。
 幸せな時間、抱きしめられているかのようにあったかい時間。
 花と蜂が織り出す一滴の奇跡、それを愛情をこめて作る方 々の想い、祖母の優しく可愛らしい愛、全てが魔法のように美しいとおもう。何事にも感謝を忘れずに、私も愛をしっかり伝えていける人になりたいと思えた。蜂蜜は、私にそれを教えてくれたのかも知れない。私は、ゆらりゆらりと浮かぶハートのハニーレモンをみて思わず微笑んだ。

 

(完)

 

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