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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜おやつ

泰平楽

 

 入院中の母を見舞うと「あの時私が余計なことを言わなかったら」と言いしきりに悔やんでいた。聞くと、地域の新旧住民の集いで友人が自治会育成の蜂蜜箱の蓋を開けようとしていた時「取っ手はも少し右じゃない」と声をかけた母の方に顔を向けた途端友人の手がぶれ箱が傾き思わぬことに蓋が半開きになってしまい、蜂が飛び出し友人のぼさぼさ髪の中に飛び込むものも出たために髪を掻きむしった手先が刺されてしまったというのだ。幸い怪我は軽くて済んだが悔いて母はそれ以来集会への参加を止めてしまったというのだ。そういえば、あるときから子供らの背中を押すだけになった母に「それでいいの?」と子供なりになじった記憶もよみがえってきた。その後我が家は転居したが、かの地の集会には子供ながら参加していて少 々の心当たりがあった私は、つてを頼って母の友人の所在を確認し訪ねて当時の話を聞いてみたのである。すると、母の名をちゃんづけで呼んでくれたばかりでなく、当時を鮮明に覚えていて「あの時の原因は取っ手箇所が手直しにより元 々ずれていたためで、お母さんの声は関係なかった」と語ってくれた。そして「気にしないでって。お互い長生きしましょって。出来たらまた会いましょと伝えてください」とまで言われた。戻ってその言葉を母に伝えるとうっすらと涙を浮かべながらしきりに頷くのであった。重い足かせから解き放たれたように母はその後少し明るさを取り戻し、同時に長い空白の時間を取り戻すかのように、おやつに蜂蜜を少し舐めるようになり、せめてものお詫びと口にするようになった。ところがその後見舞うたび変化が見られやがて元気を取り戻したように見えた。間もなく一時帰宅が許されたが、母は蜂蜜おやつを欠かすことはなかった。その後再び入院し亡くなったが、蜂蜜おやつを遺言と受け取った私は子供らにも欠かさなかったばかりか、帰省する孫にも勧めるようにしている。

 

(完)

 

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