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蜂蜜エッセイ応募作品

おじいさんの蜂蜜

塚田 真紀

 

 母方の先祖の墓はなぜか長野県伊那市にある。
 横浜生まれ育ちの私には詳しい理由はわからないけれど、物心ついたことから毎夏家族でお墓参りにいくのだった。母ももう歳をとって今は、私や妹が運転手。お墓参りと言いつつ伊那のおいしい食べ物をお土産に探すのが楽しみだ。人に頂いたのか、駅近のおばあさんが営む食糧品店で買ったのか記憶は定かでないけれど、ある養蜂園のアカシア蜜は蜂蜜の王様のようで他を寄せ付けない。
 ある年、うっかり蜂蜜を切らしてしまった。ごろっととした大きな蜂蜜の瓶を眺めると、電話とファックス番号が書いてある。試しに電話をかけると、注文はファックスで送ってとのこと、考えあぐねてアカシア蜜の瓶を3つください、とだけ書いて送ってみた。
 すぐに到着しないから忘れた頃、丁寧に梱包された段ボールの箱が届いた。中には見慣れた蜂蜜の瓶と封筒に入った手紙が添えられていた。
 アカシアの蜂蜜は夏が収穫期のため、他の種類の花の蜂蜜になってしまったこと。季節外れの注文で蜂蜜を用意するために園主自らがはるばる初春を迎える九州まで出向いて蜂蜜を採ったこと。そして伊那の近況。
 手紙はご高齢の園主の字とあって、ミミズみたいでよく読めない。たぶんそう書かれていたのだと思う。蜂蜜をただ食べるだけの何にも知らない私の気軽な注文だったであろうに、プロフェッショナルな養蜂家のおじいさまの仕事ぶりには本当に頭が下がり、今でも思い出すと顔から火が出るようだ。
 お礼の手紙は書いたと思うのだけれど、それ以来、気が引けて直接注文することも連絡することもなかった。しばらくして伊那の知人からおじいさんが他界され、息子さんが後を継いだと聞いた。もうこれが最後のおじいさんが採った蜜の瓶。こんなに食べ物を大事だと思って食べたことはない。おじいさんと私の蜂蜜。

 

(完)

 

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