渡辺 碧水
当「蜂蜜エッセイ」で、五回にわたって「蜂蜜酒(ミード)」を話題に採り上げた。
無類の酒好きのロシア出身の女性が、数ある酒類から「他のどんなお酒よりも旨かったから」という理由で選び、自らその醸造業を始めたのは蜂蜜酒だった。
人類が出合った最古の酒は、偶然、自然が水溜りに造った蜂蜜酒だった。
ギリシア神話に遡るほど遠い昔から愛飲され、「薬(薬効)の起源」とみなされるほど重宝されたのは蜂蜜酒だった。
古代から中世のヨーロッパでは、新婚の二人が一か月間巣ごもりして自ら造り、これを二人で仲良く飲み子づくりに励んだのは、強壮作用があるとされた蜂蜜酒だった。
こんなに世界的な歴史のある、旨くて健康に良い、しかも家庭でも簡単に造れる蜂蜜酒なのに、日本ではあまり普及してこなかった。周知不足で需要も供給も少ない。
蜂蜜の国内生産量が少ないため、割高感もあるが、誠に惜しい残念な実情だ。
ようやく今、健康志向の風潮や蜜源の多様化などで、蜂蜜酒に目が向けられてきた。
単純な製法の一例として、水で三~四倍程度に薄めた蜂蜜に酵母(ドライイースト)を加え、夏場は二~三日、冬場は一週間ほど発酵させればできると聞く。
だったら、家庭で自家製の蜂蜜酒を造りたいと思う人もいるに違いない。
だが、日本には明治時代以降、他国から後進国だと苦笑されるような規制がある。
アルコール分一%を超える酒を、酒造免許を持たない者が造ることは「酒税法」によって禁止され、無免許製造は違反(密造)で罰金刑または懲役刑に処せられる。
また、「その他の醸造酒」に当たる蜂蜜酒の製造免許は、年間最低六千リットル以上製造する見込みがなければ取得できない規定になっている。
つまり、酒税による税収入確保と酒造業者の独占保護のための厳しい法律に規制され、個人が趣味で好みの蜂蜜酒造りを楽しむことは事実上不可能だ。
酒税全体でも国税中の二%程度に過ぎないと聞くし、素人が造る蜂蜜酒の水準は業者のものに勝るはずがないと思うので、発想を食文化の発展に向け、過剰規制はもうやめるべきではなかろうか。
(完)
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