大阪のアン
「おじいちゃん、蜂蜜を舐めた人から幸せになるんだって!」
孫が一端のことを言う。
「そうだよ。だからお家(うち)ではみんな幸せだよね。朝のパンもおやつのクラッカーも蜂蜜と一緒だものね}
「違うよ、おじいちゃん! 舐めなきゃダメなんだよ。食べてたんじゃ、舐めたことにはならないよ」
これは厳しい指摘だ。
「じゃ、スプーン一杯舐めるんだね」
「そうだよ。僕は明日から舐めることにしよっと!」
食べても同じだと思うけれども、そう言っては元も子もない。幼稚園でお話を聞いたときに、多分「蜂蜜舐めて ・ ・ ・」といった表現があったのだろう。
樺太で終戦を迎え、2年間帰国許可が出ず留め置かれた。接収された母屋のソ連兵が、黒パンに蜂蜜を塗って食べていた。
「もらってあげるからな!」
ロシア語がいけた父は、交渉力も相当なものだったらしく、手に黒パンと蜂蜜を下げて戻って来た。
「子供に蜂蜜を舐めさせたいので、少 々分けてくれませんか?」
子供と言われて、故郷に残してきた家族のことを思い出しでもしたのだろうか、気前よく一瓶をくれたのだった。孫の一言から、75年前の蜂蜜の思い出が蘇ってきた幸せな一時であった。
(完)
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