渡辺 碧水
【六角形巣構築の過程(四)から続く】
文献事項を示すだけでは無責任にも思えるので、自己流の理解を紹介しておきたい。
まず、鳴海孝之(敬称略)らの研究の前提となる造巣の考え方を、なるべく彼らの説明に忠実に詳しく紹介する。
蜜蜂の巣に見られる精緻な六角形構造は、古くから科学者の関心を集めてきたが、そのような精緻な構造を蜜蜂がどのようにして造るのかは明らかではない。
謎に包まれている営巣メカニズムの解明は、社会性昆虫の代表例である蜜蜂の生態を理解するうえで重要なものであり、さらには自然界で見られる複雑な形状についての理解にも寄与する可能性も秘めている。
蜜蜂がどのようにして、この正確な六角形構造を構築するかについては、現在も議論されているところであるが、考え方の有力説は、大別して二つある。
一つは、蜜蜂が発する熱によって巣房(小部屋、セル)の蝋(ろう)の縁壁が自発的に六角形になるというもの。つまり、蜜蜂が発する熱で蜜蝋が溶けて、表面張力によりハニカム構造が現れるという説である。
この考え方に従えば、蜜蜂が粗い構造を造るだけで、あとは物理法則によって精緻な構造ができあがる。(本稿の(二、三)で紹介した研究の観察結果もその一つ)
しかし、実際に蜜蝋が流れて構造が形成されるといった様子は、これまでに直接観察された報告はない。(カリハルーらの研究も「観察された」とは言えない?)
もう一方は、蜜蜂が精巧な技術者であるとする考え方。つまり、蜜蜂自身が「器用な建築家」としてハニカム構造を作製するという説である。鳴海らは、この考え方に立ち、研究を進めている。
ただ、いくら蜜蜂が器用な建築家であったとしても、小さな脳しか持たず、働き蜂の寿命が長くても半年程度しかないことを考えると、働き蜂が人間のように系統立ててハニカム構造を作製しているという描像は非現実的である。
また、現場監督がいるのでも設計図があるのでもないので、蜜蜂は何か、本能として世代間で受け継ぐことができる単純な行動原理に従って造巣しているものと考えられる。
【六角形巣構築の過程(六)へ続く】
(完)
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