木村 達人
甘いものを口の中が欲している。
いつもの戸棚に甘いお菓子が見当たらない。おせんべいはあるけど、ちょっと違う。
母が整理して並べている調味料の戸棚の奥に瓶が置いてある。これを使うときは、母がホットケーキを作ってくるときくらいだ。
たまに日曜日の朝はホットケーキを作ってくれる。私は卵と牛乳と小麦粉と砂糖、ふくらし粉が入ったボールを泡立て器で混ぜるのを手伝う。
使い込まれた黒いフライパンで焼くと、タネが張り付いて、なかなか絵本のような綺麗な形で焼けない。
皿に乗せられた熱 々のフニャフニャホットケーキにマーガリンを乗せる。
瓶は固くて開かなくて父にいつも開けてもらった。大げさに「えいっ」と蓋を開けてくれるのがホットケーキを食べる前の儀式みたいなものだった。
最近は母は日曜日の朝からパートのお仕事に行くようになって、もうホットケーキはずっと食べてない。
今度は私が作ろうかな。
瓶にまぶされた誇りを拭い「えいっ」と力を込めると不思議と瓶は開いた。
人差し指につけた蜂蜜を舐め、レシピを思い出した。
(完)
ツイート
蜂蜜エッセイ一覧 =>
蜂蜜エッセイ
応募要項 =>
Copyright (C) 2011-2025 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.